2024年9月13日

令和6年度交流プラットフォーム現地見学会レポート

令和6年8月22日、23日に、一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会主催の木質バイオマス熱利用交流プラットフォーム現地見学会が北海道上川郡当麻町及び下川町内の木質バイオマス利用施設を対象として実施されました。

現地見学会は、「地域内エコシステム」の推進に向け、木質バイオマス利用施設の導入に関心のある方を対象とした先進地域の見学会の実施により、参加者間や先進地域の担当者との間での実務的な交流のきっかけを提供することを目的としています。

今回の現地見学会は、木質バイオマス温水ボイラーの安定的な運用を確保する上で重要な燃料の乾燥に焦点を当て、燃料供給者側で木質チップの乾燥ができずボイラー施設側で乾燥を行っている当麻町内施設と燃料供給者側で乾燥を確保している下川町内施設を視察することとしました。

参加者は、一般公募に対して応募した14名のうち13名でした。

現地見学会の日程や見学先の詳細情報は以下のとおりです。


 令和6年8月22日 北海道上川郡当麻町内
  ・当麻町役場
    木質バイオマス温水ボイラー(規制緩和前無圧ボイラー)及びチップ乾燥施設
  ・当麻郵便局
    木質バイオマス温水ボイラー(規制緩和後有圧ボイラー)及びチップ乾燥施設
 令和6年8月23日 北海道上川郡下川町内
  ・下川町における木質バイオマス利用の取組状況(町担当者による概要説明)
  ・下川エネルギー供給協同組合の木質燃料製造施設
  ・一の橋バイオビレッジの木質バイオマス温水ボイラー及び集住住宅、椎茸生産施設
  ・下川森林バイオマス熱電併給施設

写真:町産木材100%の当麻町役場庁舎・町議会室

当麻町内の木質バイオマス温水ボイラーと燃料乾燥施設の必要性について

当麻町内には、当麻町役場と当麻郵便局に庁舎暖房用の木質バイオマス温水ボイラーが導入されています。燃料となる木質チップは当麻町森林組合が生産し、供給しています。しかしながら、森林組合から供給される木質チップは、製材工場で発生する端材残材をチップ化したものであり、原木段階での乾燥が行われないことから乾燥チップの供給ができません。

木質バイオマス温水ボイラーで常時使用できる木質チップの水分(湿量基準)はおおむね35%以下ですが、森林組合から供給される木質チップの水分は50%以上となってしまい、そのままでは燃料利用できません。このため、当麻町内の施設では、燃料サイロに木質バイオマス温水ボイラーで発生した熱の一部を送ることによって木質チップを乾燥するシステムが導入されています。

いずれの施設でもチップ乾燥に利用される熱は木質バイオマス温水ボイラーで発生する熱の1割程度です。そのほかは暖房に使用されています。この乾燥システムによってチップ水分はサイロ投入後2~3 日程度で投入前の 50%以上から乾燥後には 30%程度になります。

当麻町に導入されているボイラーの対応チップ水分は、庁舎が45%、郵便局が40%ですが、高水分の木質チップではチップ発熱量の低下によりチップ消費量が大きくなって、燃料費が過大になります。また、 高水分のチップを使い続けると、着火不良や不具合の発生原因となり望ましくありません。当麻町ではボイラー施設側で木質チップを乾燥させることによってボイラーの不具合を防止し、安定的な運転を実現しています。

写真:当麻町役場チップサイロ

当麻町役場のチップ乾燥施設と木質バイオマス温水ボイラー

当麻町役場に設置されている木質バイオマス温水ボイラーは、令和3年の庁舎新築に併せて導入されました。機種はオーストリアKWB社製、出力が300kWのPowerfire300です。発生した熱は庁舎暖房と木質チップの乾燥に使用されています。

出典:WBエナジー

木質チップサイロは森林組合から木質チップを搬入するトラックから直接投入できる地下式を採用しています。チップ乾燥はボイラーの温水を熱交換器とファンによって温風に変え、すり鉢状のチップサイロの下部から上方に送風することによって行われます。チップサイロは同じ容量の二つが左右に並んで設置され、交互に木質チップを乾燥させることにより、エンドレスで乾燥チップを供給できるシステムとなっています。木質チップの消費速度が一定であれば、自動制御によって2つのサイロから交互に燃料供給ができます。しかしながら、熱負荷が必ずしも一定ではありませんので、想定通りの燃料消費量とはならず、燃料サイロの切り替えは職員による手動に依存することになっています。

写真:当麻町役場ボイラー見学の様子

当麻郵便局のチップ乾燥施設と木質バイオマス温水ボイラー

当麻郵便局は令和5年に建替え新築となった際に、CLTによる木造庁舎とされ、併せて庁舎暖房を木質バイオマス熱供給によることとされました。普通郵便局庁舎では、我が国で最初の木質バイオマス熱利用を採用した例となりました。導入された木質バイオマス温水ボイラーの機種は、当麻町役場と同じKWB社製のもので、出力50kWのMultifire50です。当麻町役場と同様に発生した熱は庁舎暖房と木質チップの乾燥に使用されます。

木質チップの乾燥システムは、当麻町役場での燃料サイロを並列とした場合の自動切換えができない状況を踏まえ、乾燥サイロと乾燥チップの貯蔵供給サイロの直列システムを採用しました。生チップを投入する乾燥サイロは、当麻町役場の燃料サイロと同じように下部から温風を送り乾燥するシステムを採用しています。乾燥サイロで乾燥されたチップは、輸送ダクト内をファンによる送風でもう一つの貯蔵供給サイロに送られ、ボイラーに供給されます。サイロ間のチップ送り装置は、施設コストを抑える目的でファン送風方式が採用されました。

出典:WBエナジー

写真:当麻郵便局ボイラー(有圧化対応ボイラー)

また、当麻郵便局に導入された木質バイオマス温水ボイラーは、令和4年のボイラー規制の緩和によって簡易ボイラー区分の有圧ボイラーになっています。従来、欧州製の木質バイオマス温水ボイラーを輸入する場合は、ボイラー規制によって、ボイラー技士の常駐などの厳しい運用を確保するか、無圧ボイラーに改良して運用する方法しかありませんでした。有圧ボイラーを無圧化するために開放タンク等の付帯設備が必要となり、イニシャルコストが掛かり増しになっていました。

写真:下川町研修施設コモレビでの概要説明

下川町 高橋会計管理者による下川町の木質バイオマス利用の概要説明

下川町は、北海道のほぼ中央にある旭川市から北におよそ90kmに位置し、人口は3,000人弱の中山間地域にある町です。面積は東京23区に相当し、森林面積は町面積の88%になります。森林の多くは国有林でしたが、戦後、国有林の払い下げを受け、町有林を中心とした民有林において、「伐採→植林→育成」を繰り返す、循環型森林経営を実践し、森林経営によって将来にわたり町を経営していくことを政策の基本としています。このため「木をしゃぶりつくす」ように森林資源のカスケード利用を目指し、様々な用途で木を使用しています。その一つの用途が木質バイオマス温水ボイラーへの燃料供給であり、その熱によって、町内の熱利用の大半を賄えるようになっています。

木質バイオマス温水ボイラーによる熱利用の計画がスタートしたのは平成10年です。計画を進め、その6年後に町内で初めて五味温泉にボイラーを導入しました。当時、五味温泉では給湯、加温、暖房用に重油ボイラーを使用していました。木質バイオマス温水ボイラーを導入計画時、現在よりも重油価格が安く、木質バイオマス温水ボイラーを導入してもコスト増が見込まれていました。しかし、導入後、重油価格が上昇し、燃料費の削減が実現しランニングコスト削減が可能となりました。

その後、町直営の燃料製造施設を設立し、燃料の安定供給体制を整備しました。これによって、町内各地に木質バイオマス温水ボイラーを設置し、地域熱供給システムを実現できるようになりました。現在では10基の木質バイオマス温水ボイラーによって30の公的施設に熱を供給しています。一つの熱源から複数の施設に熱供給する面的な熱供給が基本方針です。新設の公共施設にも既存の木質バイオマス温水ボイラーから熱供給ができるよう、あらかじめ設計しており、このような事例は町内に複数件あります。

出典:下川町

令和3年度の木質バイオマス温水ボイラーの燃料費と重油ボイラーであった場合の燃料費とを比較すると燃料削減効果は約3,900万円/年でした。削減分はボイラー更新費用を確保するための基金への積み立てと中学生までの医療費無料化、保育費助成などの子育て支援に充てられています。

現在、下川町では熱エネルギー等の再生可能エネルギーの自給率が56%です。将来的には木質バイオマス温水ボイラーの更新を見据えた市街地への地域熱供給を目指し、公共施設・熱源の集約化、熱供給導管の整備と高効率運用を実現します。

写真:下川町所有チッパー機

下川エネルギー供給協同組合(木質燃料製造施設)

当該木質燃料製造施設で下川町内の10基の木質バイオマス温水ボイラーで使用する燃料用木質チップを製造しています。平成20年に町が設立し、現在も建屋やチッパーといった設備は町の所有となっていますが、現在の管理運営は下川エネルギー供給協同組合が担っています。木質チップの生産量は年間約3,500tとなっており、その全量を町内に供給しています。燃料を木質チップに転換したことにより年間約1,164klの重油の消費削減が実現しました。

下川エネルギー供給協同組合は町内の化石燃料販売業者による協同組合です。木質バイオマスの利用によって、化石燃料使用量の減少が見込まれるため、エネルギー業界の反発がありました。関係者の尽力により下川エネルギー供給協同組合が平成21年に設立され、平成24年から木質燃料製造施設の指定管理者になりました。これにより化石燃料販売業者の収益も担保されるようになりました。現在の利益は約2,000万円であり、協同組合と町で折半し、町では機械更新のための基金に積み立てています。

写真:木質燃料製造施設

燃料となる木質チップの原木は全て下川町内産で、土場において1年間程度の自然乾燥後、チッパーによりチップ化されます。半年~1年の自然乾燥によってチップの水分は33%程度になります。下川町内に設置されている木質バイオマス温水ボイラーは40%ほどの水分であれば生チップの燃焼もできますが、乾燥によってチップ発熱量が上昇し、チップ使用量が減少するため、乾燥チップの利用を前提としています。

写真:住民センターでの一の橋地区概要説明

一の橋バイオビレッジ

一の橋バイオビレッジは下川町の中心市街地から東に約12kmに位置する一の橋地区にあります。一の橋地区はかつて2,000人以上が居住していましたが、平成21年には100人以下にまで減少し、高齢化率は50%を超えました。こうしたことから、下川町では、町が平成23年に環境未来都市に選定されたことを機に、超高齢化問題と低炭素化を同時に解決する「一の橋バイオビレッジ構想」を掲げ、木質バイオマス地域熱供給事業に取り組みました。

一の橋バイオビレッジ構想では、過疎化によって分散化した住宅の集住化を進め、各戸への熱供給により高齢者の居住環境を向上させました。また、住民センター、農業用ハウスでのシイタケ栽培を行う特用林産物栽培研究所等の設置を計画し、それらの施設に一元的に熱を供給する地域熱供給施設を整備しました。特用林産物研究所では雇用創出が図られ、集住化住宅などでは住民の交流も活発になりました。

写真:一の橋地区熱供給施設ボイラー

一の橋地区熱供給施設

一の橋地区の熱供給施設は平成24年に設置されています。ボイラーの機種は、Schmid社製のUTSR-550(550kW)×2基です。ボイラーで生産した熱は一の橋地区の各施設に送られ、冬期は各施設での暖房需要により熱負荷が大きくなるので2基が稼働し、夏期は集住化住宅の給湯のみに使用されているため1基の稼働となっています。

なお、集住化住宅では各戸の熱の利用メーターによって使用量に応じた利用量を徴収していましたが、メーター機器の更新費用を抑えるため、現在では各戸定額制としています。またボイラーで発生した灰は土壌改良剤に使用する等、木質バイオマス資源を余すことなく使用しています。

写真:シイタケ栽培施設

令和元年に一の橋地区熱供給施設の改修工事が行われました。具体的には次の三つの改修が行われています。
 ①送り温度を下げる。
 ②送り温度と戻り温度の温度差を大きくする。
 ③インバーターポンプの設置により必要な時に必要な量の温水を送る。

これらにより改修後の令和2年の推計では電気使用量が約26,000kWh(14.3%)、燃料使用量が約30t(3.4%)削減できたということです。

この改修工事は地域熱供給の供給方法の第3世代から第4世代への転換を図るものです。日本ではあまり馴染がありませんが、地域熱供給は欧州では一般的であり、先進的な技術があります。地域熱供給は第1世代から始まり、世代が変わるごとに省エネルギー化しています。複数の施設に熱供給する場合は、第4世代での熱供給が電気と熱の使用量減少のために非常に重要になる技術です。

地域熱供給は主に熱源、供給温度とエネルギー効率の向上によって技術革新が起こりました。第1世代は1900年代初期から行われ、石炭と廃棄物を熱源として、供給温度は200℃の蒸気で、エネルギー効率はとても低いものでした。1930年代以降に第2世代の地域熱供給が始まりました。石炭と廃棄物に加え、石炭・石油熱電併給を熱源に使用し、高温(100℃以上)の加圧温水を利用しました。1980年代以降にはバイオマスや太陽熱、天然ガスを熱源に使用する第3世代の地域熱供給が始まりました。100℃以下の温水を用いたエネルギー効率の高い地域熱供給でした。そして2020年代ごろから始まった第4世代では地中熱などの再生可能エネルギーを広く熱源として利用し、供給温度が50℃~70℃程度の従来より低温の温水を用いています。熱損失を最小限にした配管システムや需要動向の把握を行うことでエネルギー効率を向上させています。

表1 地域熱供給の変遷

出典:環境エネルギー政策研究所

写真:熱電併給施設のペレットサイロ

下川森林バイオマス熱電併給施設

下川森林バイオマス熱電併給施設は、木質ペレットの製造と木質ペレットをガス化して発電と熱供給を行う施設です。昨年度までは北海道バイオマスエネルギー株式会社が運営していましたが、ウッドショック等の影響により採算が合わなくなったとして令和6年3月末をもって発電施設の運転を休止しました。その後、令和6年6月末に下川町内の北の森グリーンエナジー株式会社に事業譲渡されました。今回、北の森グリーンエナジー株式会社のご厚意により特別に操業準備中の施設を見学させていただきました。

下川バイオマス熱電併給施設では町内から年間約16,000tの原木を調達し、ペレット工場で木材の粉砕・乾燥・ペレット整形を行い、生産した木質ペレットをペレットCHP(熱電併給設備)で使用します。CHPは11基あり、1基当たりの発電出力は165kW、熱出力は260kW、エネルギー効率は75%です。このCHPで発生した電気は北海道電力に販売し、熱は木質ペレット製造用木材の乾燥の他、将来的には地域に熱供給する予定です。また、製造された木質ペレットは一般家庭用としても販売されます。

木質ペレット製造までの工程は以下のとおりです。
 ①デバーカーによる樹皮剥ぎ取り
 ②ツインチッパーによる木材のチップ化
 ③ムービングフロアで生産したチップを搬送
 ④ベルトドライヤーで乾燥(CHPより発生した熱を使用)
 ⑤ハンマーミルでチップを更に細かく破砕
 ⑥ペレットミルでペレット化
 ⑦クーラーによる冷却

写真:ペレットガス化設備(左)とペレットCHB(右)

木質ペレットはガス化装置に入れられ、供給空気量を調整することによって一酸化炭素を多く含む可燃性木質ガスを生成し、これが燃料となります。また、ペレットからガスが抜けた固体部分はバイオ炭になります。木質ガスはその後CHPに送られ、それを燃料にエンジンを回転させて発電を行います。ガス化装置では熱が発生し、CHPでは電気が発生し、双方を供給することが可能となります。

木質ペレットのガス化の際に発生したバイオ炭は、炭素そのものですので、それを土壌中に施用することで炭素を固定することができ、炭素削減量はJ-クレジットとして認定されます。下川町内においても、バイオ炭を農地施用した土地で小麦を収穫、製粉し、販売しています。小麦粉1㎏につきカーボンオフセット1㎏が付加され、購入者のCO2排出削減に一役買っています。

写真:下川町産J-クレジット認定小麦粉

謝辞

最後になりましたが、見学会を開催するに当たり多大なるご協力をいただきました、当麻町役場の福本係長、当麻郵便局の太田局長、下川町役場の高橋会計管理者、下川観光協会の高松事務局長、そして北の森グリーンエナジー株式会社の大藪代表取締役、川島取締役に心より感謝を申し上げます。

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